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津地方裁判所 昭和62年(ヨ)53号 判決 1988年3月02日

債権者

鈴木弘明

右訴訟代理人弁護士

中谷雄二

谷口彰一

松葉謙三

債務者

国光カーボン工業株式会社

右代表者代表取締役

柳沢白鳳

右訴訟代理人弁護士

四橋善美

山浦和之

主文

1  債権者が債務者のフルイ担当従業員として勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は債権者に対し昭和六二年六月から毎月二五日限り月額一二万円の割合による金員を仮に支払え。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  債権者

(一)  債権者が債務者のフルイ担当従業員として勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

(二)  債務者は債権者に対し、昭和六二年六月から毎月二五日限り月額一二万円の割合による金員を仮に支払え。

2  債務者

債権者の申請を却下する。

二  当事者の主張

1  債権者の申請の理由

(一)  債務者会社は、炭素製品及び粉末冶金製品の製造販売を業とする株式会社で、従業員は約一二〇名である。

(二)  債権者は昭和五五年二月に債務者会社に入社し、以来、「フルイ」の仕事をしてきた。「フルイ」の仕事とは、炭素製品に付着した粉末、埃、砂などをふるい落したり、製品をミキサーによって攪拌して、製品どおしのくっつきを放したり、不良品をふるい落したりする仕事である。従って、炭素粉塵がかなり多い仕事であり、塵肺職場でもある。債権者は、全日本運輸一般労働組合国光カーボン支部の副委員長である。

(三)  組合支部結成と不当労働行為

(1) 昭和六〇年一二月一日、債務者会社の従業員七六名出席のうえ、全日本運輸一般労働組合国光カーボン支部(以下、「第一組合」という)結成総会が開かれ、第一組合は翌二日債務者会社に組合結成通知書を提出した。倉田猛が第一組合の委員長となった。

(2) 脱退工作

ところが、組合支部結成後、後に債務者会社の課長となり、後記のとおり第二組合委員長となった坂口達也などが「運輸一般は共産党だ」、「運輸一般に入ったら、やめられない」、「運輸一般は危険な組合である。資料もある」、「上部団体をはずせば、組合を認めるよう一筆書かせる」などと倉田猛委員長らに対し、組合脱退工作を行った。債務者会社の柳沢社長夫人は、昭和六〇年一二月二九日、倉田委員長に「上部団体をなぜつけたか。一年間やってみて、だめだったらつければよい」などと運輸一般をはずすよう強要した。その結果、昭和六一年二月までに倉田委員長他多数の組合員が第一組合を脱退した。第一組合は同月二二日臨時大会を開催し、新役員を選任し、山口初志が委員長に、債権者が副委員長に選任された。

(3) 第二組合の結成

昭和六一年一月二七日、国光カーボン工業労働組合(以下、「第二組合」という)の結成大会がひそかに開かれ、坂口達也が委員長に、本間功(後に課長代理になった)が書記長に選任された。

(4) 組合ビラ配布に対する干渉

債務者会社は、第二組合が就業時間中にビラ配布をしても何の文句も言わないのに、第一組合がビラ配布をすると就業規則違反でけん責処分すると通告したり、食堂を使用すると施設利用料を払えなどといって組合活動を妨害した。

(5) 団交拒否

債務者会社は第一組合が団交申し入れをしても、団交期日を引きのばしたり、組合側の人数が多いといって議題に入らなかったりした為、第一組合は昭和六一年四月三重県地方労働委員会に「団体交渉の促進と指導」の斡旋を申し入れざるを得なかった。地労委での斡旋が成立した後も、電気代がもったいないとか言って、電気をつけず、暗い中で団交をするという非常識な行為を行った。

(6) 昇格差別

昭和六一年六月二日、債務者会社は組織変更し、職制を公示した。そして、債務者会社の社長は「正当な理由なく、拒否した場合は解雇する」と発言した。債務者会社は第一組合の執行部に対しては、不当に低い役職に格付けしたのに対し、第二組合の執行部に対しては、課長、課長代理にするなどの昇格差別をした。

(7) 一時金差別

債務者会社は、昭和六一年の夏季一時金の支給金額につき、第一組合の組合員について不当に低い金額とした。

(四)  債権者の配置転換と不当労働行為性

(1) 昭和六一年九月二日、焼成炉担当の従業員が病気のため休むということで、休んでいる間のみ、臨時に債権者が焼成炉の仕事を手伝うこととなった。債権者は焼成炉を手伝うようになってから次第に体の不調を感ずるようになり、同月一六日は会社を休み、医者へ通うようになり、一七日出勤したが焼成炉の仕事をするよう命ぜられ、その仕事をしたが、体が悪くなり、一八日から二一日まで休まざるを得なかった。債権者が翌二二日に出勤したところ、焼成炉の係の人は退職し、荷物を取りに会社へ来たとのことであった。その後、債務者会社は、うやむやのうちに債権者を焼成炉担当として扱うようになった。債権者は同月二二日夜から体の具合が悪くなり、二三日は休日であったので体を休め、二四日は欠勤し、二五日出勤したところ、焼成炉のバーナーと温度計の使い方を覚えるように言われ、焼成炉の仕事をしたが温度差が大きい場所での仕事であったためか、夕方より頭痛がし、夜にひどくなったので、同月二六日から一〇月八日まで欠勤した。債権者は体の調子が大分良くなったので、一〇月九日に出勤し、債務者会社柳沢部長に「病気の原因と思われる焼成炉以外の仕事ならできると思うから、その他の仕事をやらせてほしい」と述べたが、同部長は「君の仕事は焼成炉だ」というだけで、他の仕事をすることを拒否したのでやむを得ず帰らざるを得なかった。債権者は、やむを得ず同月一〇日から同月一九日まで診断書を提出して欠勤した。債権者は同月二〇日、二一日と出勤し、「焼成炉以外で働らかせて下さい」と言っても債務者会社は「焼成炉で働きなさい」というのみで、その他の仕事への就労を拒否した。債権者の病名は、アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎であり、温度差が激しいところや粉塵の多い職場は債権者の病状を悪化させることは明らかである。焼成炉の仕事場は炭素製品をボイラーで焼成するところで、温度差が激しく、炭素製品を焼成するために炭素製品の間に手で土砂を入れる作業があるが、その際、その粉塵を直接吸い込むことになり、債務者会社では最も粉塵の多い職場であり、従業員が最もいやがる仕事である。

(2) そのため、債権者は焼成炉担当への配転は無効であるとして、昭和六一年一二月九日債務者を相手方として仮処分申請をなした(津地方裁判所昭和六一年(ヨ)第一五二号賃金仮処分命令申請事件)。そして、債権者と債務者会社との間で、昭和六二年三月二七日訴訟上の和解が成立した。その和解内容は「債権者が四月一日から就労し、その後、一か月間は焼成炉とフルイの仕事を交互に行う」というもので、和解調書にはその旨のみ記載されたが、裁判官が口答で「一か月過ぎたあとのことは和解条項に書けないが、焼成炉にすれば当然トラブルが起こるから裁判所としては債務者は債権者をフルイの仕事につかせると了解しています」と述べたところ、債務者会社代理人弁護士は「紛争をむしかえしたくないですからね」と述べその旨を了承した。そこで、債権者代理人は債権者に対し和解に応じるように説得した経緯にある。債権者は四月一日より就労したが、債務者会社の柳沢部長や柳沢社長らが、債権者に「メガネは何だ」とか「あやまりにこい」などと言い、また仮処分事件の証拠で提出された債務者会社内の写真などについて詰問するなど、いろいろいやがらせの言動をなした。そして、債権者は交互に焼成炉とフルイの仕事をなしたが、焼成炉の仕事をすると鼻血が出ることなどがよくあった。その後、債権者は同年五月一日よりフルイの仕事に付くものと思っていたところ、柳沢部長より焼成炉の仕事につくように指示された。債権者が合意と違うと抗議すると、柳沢部長や柳沢次長らは「口答了解などはしていない。弁護士にだまされとるんだろう」などと厚顔無恥なことを言うのみであった。そして、その後、債権者宅に郵送されてきた債務者会社の文書でも、同様な内容で口答了解などはないと述べ、その上債権者を懲戒するなどという脅迫的な言辞も通告してきた。債務者会社は裁判所での合意すら遵守せず、債権者を敵視しているのである。債権者は裁判所に仮処分申請までして、配転の無効を主張していたものであり、一か月後に再び焼成炉に配転されることがわかっていたなら和解に応ずるはずはない。一か月を焼成炉とふるいを交互にするとしたのは、債権者を元のフルイの職場に戻すための単なる手続きにすぎなかったのである。ただ、債務者の立場も考慮して出された案である。債務者は、そのことを十分知っていたはずである。

(3) 配置転換とは同一企業内における労働者の職種、職務内容、勤務場所のいずれかを長期にわたって変更する企業内人事異動の一つである。フルイの仕事は大きく分けて二つの仕事からなり、その一つは粉末状の原料を圧縮、整形した製品に残った粉末や不良品を機械によってフルイ落し、その製品を木箱に移して外注に渡す仕事であり、もう一つは外注からもどった製品を焼成炉で焼き、出てきた製品を小型のミキサーにより攪拌したり、製品どおしのくっつきを取り、次に機械によってほこり、砂、不良品をフルイ落し、次に電気抵抗を測定し、その抵抗値によって分け、もし必要な抵抗が出ない時は、ミキサーによって混ぜたり、必要な抵抗の製品をつくり、次行程の検査に渡す仕事である。これに対して焼成炉の仕事は、外注から戻ってきたステンレス製の入れ物に入った製品を焼物の箱に並べ、その間に砂を入れ、それをチェーンブロックを使って焼成炉に入れ、焼成後の製品を出す仕事である。このようにフルイの仕事と焼成炉の仕事とは職務内容を全く異にするものである。実際上、債務者会社においては、従来からフルイの仕事と焼成炉の仕事とはそれぞれ別の人間が担当してきたのである。したがって、前記のとおり債務者会社が債権者に対し昭和六二年五月一日をもってフルイの仕事をやめて焼成炉の仕事へ就くように命じたのは、労働者の職務内容を長期にわたって変更させるものであり、配置転換にあたるというべきである(以下、「本件配転命令」という)。

(五)  本件配転命令の権利濫用による無効

(1) 配転命令が権利濫用に該るか否かを判断するには、a配転命令について業務上の必要性の有無、b業務上の必要性の程度と配転が労働者の生活上の利益に及ぼす影響度との比較衡量、c配転手続における信義則違反の存否などの事情が考慮されなくてはならない。

(2) 業務上の必要

そこで、まず、債権者を焼成炉担当へ配転することの業務上の必要性を考えねばならないが、債務者は、焼成炉の担当員であった戸田啓一が高齢のため退職し、その後任として債権者を任命した。その理由は、債権者は入社以来同じ第一製造課に勤務し、焼成炉の隣でフルイ作業に六年間従事していたことから、炉の作業内容を熟知しており、しかも炉の作業経験をも有していたので、後任者として最適であると判断したと債務者は主張している。そして、フルイ作業自体は、専任の必要性に乏しいというのである。しかし、フルイの仕事についてみれば、債権者が就労を拒否されてから後は、渡部、浅野と一時期を除いて、ずっと専任者がいるのであって、この実態を見れば、フルイ作業が専任でなくてもできるなどとはとうてい言えないのである。そればかりではなく、社内における要員配置をみれば、渡部、矢田と言った社員が辞職し、二名の欠員状態にあり、一二月までは、館も交通事故によって休業しており、欠員状態はこの間継続している。実際はプレス機三台が停止した状態であり、この点について社長は新型のプレス機を入れたためなどと弁解するが、この欠員が出るまでは動いていたプレス機が現に動いていないという事実は間違いないのである。従って、業務上の必要性という点からは、直ちにフルイ作業が専任の必要性がないからフルイ担当者が焼成炉につかなければならない状態になく、また、焼成炉以外の職場に債権者を配置しえない状況にもない。債権者を焼成炉に配転する実質的理由について「隣りで働いていたから」としか答えられなかった社長の証言からもこのことは明らかである。債権者がたとえ六年間焼成炉の隣でフルイ作業に従事していたからといって、焼成炉の仕事とフルイの仕事とは全く内容が異なるのであり、そばで見ているだけで炉の作業内容について熟知していたなどと言えるはずは全くないのである。債務者会社に三人も欠員がありながら、債権者を就労させないという債務者の態度は、企業の人員配置を適正に考慮しようという態度では全くなく、むしろ、債権者個人に対する嫌がらせの意図すら伺えるものである。

(3) 人選の合理性

また、債権者を人選することの合理性についても考えなければならない。焼成炉の仕事に対するなれという点からみても、債権者は倉持に比べ、かなり劣っているのである。倉持は経験の上からいっても焼成炉の仕事の処理が速く、債権者が焼成炉の仕事をすると、退社時刻の午後五時までに終らず、倉持に手伝ってもらったりしていたのである。逆に、フルイの仕事については債権者が倉持よりも経験が長く、仕事も速く午後五時前に仕事を終え、時間が余るくらいであったのに対し、倉持がフルイの仕事をしていた時は、定時をこえて仕事をすることもよくあったのである。また、倉持自身が「債権者がフルイの仕事になれているのなら自分が焼成炉の仕事をしてもいい」と会社に対し述べていた事実も存するのである。しかも、債権者はアレルギー性鼻炎と副鼻腔炎をわずらい、温度差が激しいところや粉じんの多いところでは症状を悪化させるのみなのである。焼成炉の仕事場はボイラーで焼成するところで、温度差が激しく、粉じんも相当多いのであり、焼成炉の仕事についてからは、債権者は鼻炎症状を起こし、体調が悪くなり休んだりしていた。また、債権者が焼成炉の仕事に出てきた時に、体調を崩し、フルイの仕事の時には、そういうことはなかったのである。また、前記の和解後、出勤したときも、焼成炉の担当となった際は、頭痛がしたり、鼻出血することも二度ほどあったのである。かように、焼成炉の仕事をすることによって、債権者は健康を相当程度害しており、それに比べ、倉持は焼成炉の仕事に従事していても、健康を害することなどはなかったのであるから、その点からしても債権者を人選することには合理性はない。

(4) 債務者会社の不誠実な対応

また、債務者会社は、焼成炉への就労につき、債権者の同意を得るための努力は一切していないのである。前記仮処分事件の和解成立後、四月一日より出勤した債権者に対し、「早くあやまりにこい」などと言ったり、「あいさつに来るのが遅い」とか「電話でカマの仕事はできないとぬかしとったくせに、自分のほうからカマの仕事をさせてくれと言ってきた」などと嫌がらせのようなことを言ってきた。また五月一日からの就労についても、「明日からカマに入ってくれ」「焼成炉をずっとやれ」とか「一生裁判してやるぞ」「お前の死ぬまで裁判してやるぞ」などと脅迫じみたこともまじえて、一方的に命令するのみで、債権者の同意を得ようとする努力などさらさらしていないのである。また前回、焼成炉への就労を命じたことで、仮処分事件となったことは十分承知していながら、あえて今回、債権者に一方的に就労を命じれば、また紛争のむしかえしになることは債務者は十分に承知しながら、再び紛争を引き起こしたのである。その態度からしても、債権者の同意を得るための努力など全くせず、不誠実な対応としか言いようがないのである。また、今回、本件仮処分事件継続後の暫定和解についての会社側の対応にもそのことが伺える。判例は、使用者が労働者の同意を得るためになした努力の程度、同意を得られなかった場合でも本人の家庭生活上の事情をどこまで考慮したか等配転を命ずる際の手続方法の妥当性という要素を重視し、信義則違反の成否を決め、配転命令が権利の濫用となるか否かの指標としている。本件の場合債務者会社の対応は全く不誠実であり、労働者の同意を得るために努力などはさらさらしておらず、一方的に命令してきただけであった。したがって、この点において債務者の信義則違反が存在する。

(5) 以上のとおり、債務者が債権者にした本件配転命令は権利の濫用であるから無効である。

(六)  本件配転命令の不当労働行為による無効

債務者は前記のとおり第一組合に対して種々の不当労働行為を行ってきており、債務者会社の代表者自身が第一組合を嫌悪している状態にある。本件配転命令は労働環境が劣悪であって従業員の嫌う職場へ体質的には最も不適性である債権者を配置転換したものであって、債権者に対する不利益取扱いというべきである。債権者は第一組合の副委員長として重要な地位にあり、本件配転命令については、前記のとおり業務上の必要性もなく、他に焼成炉職場の適任者がいるなど人選に合理性がないこと、債務者会社が第二組合を優遇し、第一組合を敵視している状況のもとでなされていることなどを考慮すれば、債務者の本件配転命令は第一組合に対する一連の不当労働行為の一環であり、債務者の不当労働行為意思に基づいて行われたものといえる。したがって、本件配転命令は不当労働行為によるものであるから無効である。

(七)  債権者の労働契約上の地位

債権者に対する本件配転命令は前記(五)及び(六)の理由により無効であるから、債権者は債務者会社のフルイ担当従業員として勤務する労働契約上の権利を有する地位にある。

(八)  債権者の賃金債権

債権者は昭和六二年五月二日より病欠し、同年五月一五日から債務者に対し焼成炉以外の仕事に就労する意思をもって労務の提供をしてきたのであるが、債務者会社は右労務の提供の受領を拒否してきたのであるから、債権者は昭和六二年五月一五日以後債務者会社に対し、賃金請求権を有する。債権者の税金、各種保険等を差し引いた賃金は、昭和六一年七月は一一万九〇三〇円、八月は一三万二六〇七円、九月は一一万〇五九〇円である。右三か月を平均すると一か月の賃金は一二万円強である。債務者会社の給与は日給制で、毎月一五日締めの二五日払いである。したがって、債権者は昭和六二年六月以降、毎月二五日限り一二万円の賃金の支払を受ける債権を有することになる。

(九)  保全の必要性

債権者は、母と障害者の叔母と暮らしているが、父の遺族年金年間六〇万円のほかは、債権者の債務者会社からの給与により生活しているのである。従って給与収入がなければ、債権者を含め家族三人の生活が困窮に至り生活不能となることは明らかである。また、給与収入が断たれたため生活が苦しいうえに債権者は、賃金を受け取ってもいないのに保険料の半額は継続して自己負担として支払ってきているのである。債権者の求める賃金額は、保険料等も控除した金額を求めているにもかかわらず、債権者は保険料の負担もしいられ支払っているのである。かような生活の困窮などは、本案の裁判による結着を待ったのでは、債権者自身の生活は破たんし、窮極的には死を意味することにもなってしまう。またこのままでは債権者に対する懲戒解雇処分がなされるおそれがある。したがって、債権者が債務者に対してフルイ担当従業員として勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めること並びに賃金の仮払をすることの仮処分の必要性がある。

2  申請の理由に対する債務者の答弁

(一)  申請の理由(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、フルイの仕事が炭素粉塵のかなり多い仕事であり、塵肺職場であることは否認し、債権者が全日本運輸一般労働組合国光カーボン支部の副委員長であることは知らないが、その他の事実は認める。

(三)(1)  同(三)(1)の事実中、昭和六〇年一二月二日第一組合が債務者会社に組合結成通知書を提出したこと及び倉田猛が第一組合の委員長となったとの部分は認め、その余は不知。

(2)  同(2)の事実中、債務者会社の柳沢社長夫人が昭和六〇年一二月二九日、倉田委員長に話をしたことは認めるが、強要した事実及び発言内容は否認し、その余の事実は不知。

(3)  同(3)の事実は不知。

(4)  同(4)の事実中、債務者会社が第一組合に対し食堂を使用する際、施設利用料の支払いを求めたことは認め、その余は否認する。

(5)  同(5)の事実中、第一組合が昭和六一年四月、債務者会社を相手方として三重県地方労働委員会に「団体交渉の促進と指導」の斡旋を申し入れたことは認め、その余は争う。

(6)  同(6)の事実中、昭和六一年六月二日、債務者会社は組織変更し、職制を公示したことは認め、その余は否認する。

(7)  同(7)の事実は否認する。

(四)(1)  申請の理由(四)(1)の事実のうち、債権者が焼成炉の仕事をするようになった後、昭和六一年九月一六日、一八日から二一日まで、二四日、二六日から同年一〇月八日まで、同月一〇日から一九日まで各欠勤したことは認め、その他の事実は否認する。

(2)  同(四)(2)の事実のうち、債権者が昭和六一年一二月九日債務者を相手方として仮処分申請をした(津地方裁判所昭和六一年(ヨ)第一五二号賃金仮処分命令申請事件)こと、債権者と債務者との間で昭和六二年三月二七日訴訟上の和解が成立したこと、和解調書には「債権者が四月一日から就労し、その後一か月間は焼成炉とフルイの仕事を交互に行う」旨記載されていること並びに債権者が同年四月一日から就労したことは認め、その他の事実は否認する。

(3)  同(四)(3)の事実は否認する。

(五)  同(五)の事実は否認する。

(六)  同(六)の事実は否認する。

(七)  同(七)の事実は否認する。

(八)  同(八)の事実は否認する。

(九)  同(九)の事実のうち、債権者が母と障害者の叔母と暮しており、父の遺族年金年間六〇万円のほかは債権者の債務者会社からの給与により生活していることは知らず、その他の事実は否認する。

3  債務者の主張

(一)  債務者会社の概要

債務者会社は、炭素製品並びに粉末冶金製品の製造販売を主たる業とする従業員一一八名の株式会社である。

(二)  債務者会社が債権者に焼成炉勤務を命じた理由

債務者会社第一製造課焼成炉の担当者であった戸田啓一(当時六一歳)は、高齢のため昭和六一年九月一五日付で債務者会社を退職した。債務者会社は、戸田の後任者として債権者を選任した。その理由は、債権者は昭和五五年二月入社以来同じ第一製造課に勤務し、焼成炉の隣接職場であるフルイ作業に六年間従事していたことから炉の作業内容を熟知しており、しかも炉の作業経験をも有していたから、後任者として最適であると判断したからである。なお、債権者が焼成炉作業に従事した場合の給料、作業時間等の労働条件は、フルイ作業の場合と全く同一である。

(三)  焼成炉の作業環境

債権者は、焼成炉の作業環境を問題視しているが、指摘される事実は存しない。先ず、温度差が激しい作業環境であるという点についていうと、焼成炉の作業環境には、労働基準監督署より労働安全衛生規則第五八七条所定の『暑熱』屋内作業場であるとの指定を受けていない。株式会社三重環境技術センターが昭和六二年一二月一日、職場の温度を測定した結果によると、一五・五度cないし二〇・〇度cという数値が出ており、温度差が激しい職場であるとの債権者主張は事実に反する。次に、粉塵の多い職場であるとの点についていうと、株式会社三重環境技術センターの昭和六二年一一月二八日付「作業環境測定結果報告書」によると、焼成炉の存する工場は、第一管理区分に該当し、「作業環境管理が適切である」と判断されており、何ら問題は存しない。

(四)  本件職場変更の正当性

(1) 債務者会社就業規則第八条一項は、「会社は業務の必要により職場・職種の変更をさせることがある」と規定し、同条二項は「前項の場合、従業員は正当な理由がなければこれを拒むことが出来ない」と定めている。従って、債権者は「正当な理由」がない限り債務者会社が命じた焼成炉職場での勤務に従事しなければならない。

(2) 債権者は、右「正当理由」として、焼成炉職場は労働環境が悪く、体質的に適さないことを理由に挙げるが、労働環境の点についていえば、前記のように何ら問題がなく、体質面の問題については、債務者会社産業医平田医師作成にかかる「鈴木弘明氏の健康上の理由に関して」と題する書面では、債権者の体質が焼成炉職場に不適とはいえないとしている。債務者会社は本件職場変更命令を作業効率、生産性向上という見地から行ったものである。債務者会社は債権者の健康回復と職場復帰を根気強く待っており、債権者に債務者会社をやめさせようと考えたことはない。

(五)  先の仮処分申請事件和解成立の経緯

申請人を債権者、被申請人を債務者とする津地方裁判所昭和六一年(ヨ)第一五二号賃金仮処分命令申請事件は、昭和六一年一二月二二日に第一回、次いで昭和六二年一月一九日に第二回の各審尋期日が行われ、双方の主張及び疎明資料が提出された。債権者は、副鼻腔炎を理由に焼成炉でなくフルイの仕事をさせよと主張したが、債務者は産業医の意見等に基づき、債権者の右主張には合理性がなく、いわれのない口実を設け、職場の選択権を従業員に認めさせようとする債権者の主張は肯認しえないと反論した。昭和六二年三月六日、債権者に対する審尋が終了した時点で、裁判所は債務者代表者柳沢白鳳に対する審尋を留保したまま、和解期日を指定した。和解は、三月一八日、同月二五日、同月二七日の三回にわたって行われ、二七日に和解が成立した。和解内容については、債権者が職場復帰することについては、とりあえず双方共に合意したが、債権者の就労場所については、債権者がフルイを主張し、債務者は焼成炉を主張した。裁判所は和解解決を図るべく、双方の主張を折衷した形で「一か月を限度として焼成炉とフルイの仕事を交互に行う」旨の和解案を提示し、これを受入れるよう双方に要請し、右内容自体は双方共受入れることとなった。然し、一か月経過後の就労場所については依然として双方の見解が対立し、裁判所としても和解成立時に右場所を特定し、和解調書に明記することは不可能であると判断せざるを得なかった。しかし、四月の転任を控え、同裁判所在任中に本件を和解によって終了させようとした担当裁判官は、「債権者の一か月経過後の就労場所は、同人の一か月間の勤務状況を見て決めざるを得ないだろう。一か月経過した時点で、健康等の理由により焼成炉勤務が無理なときには、債務者代理人としても債権者の職場について配慮して欲しい」旨述べられ、債務者代理人としても裁判官の右提案は常識的なものであることから、「代理人として了解しました。」旨述べた。次いで、解決金の支払の有無及び支払額が問題となった。債務者としては、解決金はいわれのない金であり、他の従業員に対し説明し得ないとの理由でその支払いについては強く抵抗した。しかし、最終的には「和解金を支払ってくれた会社の気持ちを汲んで今後は本人も会社の命令に従って仕事してくれるだろう」との債務者代理人の説得により、債権者は二四万円支払うことで合意した。

(六)  債権者の勤務状況

債権者は、前記和解条項に従い、昭和六二年四月一日から同月末日迄、焼成炉及びフルイの仕事を交替に行った。その勤務態度は真面目であり、以前の勤務態度を知る者には驚きであった。ところで、右一か月間における債権者の実働日数は二三日であり、そのうち病欠は二日となっているが、うち一日は津生協病院へ行くとのことであったので、実際の病気休養は一日だけであった。(右病気の診断書は、債務者に提示されていない。)債権者は右作業期間中の四月二三日(焼成炉作業時)、同月二七日(フルイ作業時)の二回、鼻血を出したと債務者に申告しているが、平田産業医の所見による「鼻血が出た症状の原因も不明であり、作業環境因子も特定できない状態では職場変更を直ちに判断する必要はない」とのことであった。債権者は、病気ないし体質を理由に、焼成炉勤務ができない旨主張していたが、和解条項に基づく一か月勤務により、焼成炉勤務が健康上特段の問題なくなし得ることを証明した。してみるならば、債権者の焼成炉勤務を拒否していた理由は、自己の気に入らない職場では働きたくないという恣意に基くものであったことが明らかとなり、債務者は絶対に容認できない。

(七)  焼成炉とフルイの作業場は、同一課内にあり、その距離も数メートルしか離れておらず、フルイから焼成炉への交替は同一職場内の作業部署の交替であって、いわゆる配転とは異なる観念であるから、右交替を配転と称し、配転無効の仮処分申請をすること自体理論的に不当といわなければならない。

三  証拠関係は訴訟記録中の証拠関係目録の記載を引用する。

理由

一  債務者会社は、炭素製品及び粉末冶金製品の製造販売を業とする株式会社であり、従業員は約一二〇名であること、債権者が昭和五五年二月に債務者会社に入社し、以来フルイの仕事をしてきたこと、フルイの仕事は、炭素製品に付着した粉末、埃、砂などをふるい落したり、製品をミキサーによって攪拌して製品どおしのくっつきを放したり、不良品をふるい落したりする仕事であること、第一組合が昭和六〇年一二月二日債務者会社に対し、組合結成通知書を提出したこと、倉田猛が第一組合の委員長になったこと、債務者会社の柳沢社長夫人が同月二九日倉田委員長に話をしたこと、債務者会社が第一組合に対し食堂を使用する際の施設利用料の支払を求めたこと、第一組合が昭和六一年四月債務者会社を相手方として三重県地方労働委員会に「団体交渉の促進と指導」の斡旋を申入れたこと、債務者会社が同年六月二日組織変更を行い、職制を公示したこと、債権者が焼成炉の仕事をするようになった後の同年九月一六日、一八日から二一日まで、二四日、二六日から同年一〇月八日まで、同月一〇日から一九日まで各欠勤したこと、債権者が同年一二月九日債務者を相手方として仮処分申請した(津地方裁判所昭和六一年(ヨ)第一五二号賃金仮処分命令申請事件)こと、債権者と債務者との間において昭和六二年三月二七日訴訟上の和解が成立したこと、和解調書には「債権者が四月一日から就労し、その後一か月間は焼成炉とフルイの仕事を交互に行う」旨記載されていること、債権者が同年四月一日から就労したことは当事者間に争いがない。

二  前記一の確定事実、(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。

1  債権者は債務者会社に入社した昭和五五年二月以来フルイの仕事をしてきており、昭和六一年六月九日からは製造部第一製造課ミシンパイル製造係に属し、大田等係長の下で以前と同じくフルイの仕事を担当してきた。戸田啓一は債権者と同じミシンパイル製造係に属し、以前から焼成炉の仕事を担当してきた。債権者の従事するフルイの仕事の作業場と戸田啓一の従事する焼成炉の仕事の作業場とは隣接している。フルイの仕事の内容は前記一判示のとおりであるが、焼成炉の仕事は、炭素製品を焼成炉で焼成するものである。フルイの仕事及び焼成炉の仕事はいずれも粉末状の原料を取扱うために粉塵の多量に発生する仕事であるところ、焼成炉の仕事は右粉塵に加えて焼成炉による高温度の影響を受けるものである。

2  戸田啓一は昭和六一年九月二日から病気により欠勤することになった。同日債権者は債務者会社から戸田の欠勤中臨時に焼成炉の仕事を担当するように命じられた。債権者は同日焼成炉の仕事を行ったが、翌三日から戸田が一時的に出勤してきたので、同人の通院による欠勤の同月五日、九日のみ焼成炉の仕事に従事したところ、身体の具合が悪くなった。戸田啓一は同月一五日債務者会社を退職した。債権者は同月一六日出勤し、上司から命じられた焼成炉の仕事をしたが、頭痛がして中村医師の診察を受け、同月一七日から同月二一日まで病気欠勤し、同月二二日出勤して初めて戸田啓一が退職したことを知り、自分が自動的にフルイの仕事から焼成炉の仕事へ配置転換されたことに気付いた。債権者は同月二二日夜からまた身体の具合が悪くなり、休日である二三日は休養し、その翌日の二四日は欠勤し、同月二五日に出勤して焼成炉の仕事をしたところ、夕方からまた頭痛がしたので、同月二六日から同年一〇月八日まで欠勤した。債権者は同年九月二九日に債務者会社から医師の診断書を提出するように指示されたので、その頃中村医師の診断書を得てこれを債務者会社に提出した。債権者は同年一〇月九日出勤して上司である柳沢製造部長に対し焼成炉の仕事が原因で身体の具合が悪くなるので焼成炉以外の仕事をさせてくれるよう求めたが、同部長から拒否されたため同日は早退し、一〇月一〇日から同月一九日まで更に医師の診断書を提出して病気欠勤し、同月二〇日、二一日出勤して焼成炉以外の場所での勤務を認めてくれるよう債務者会社に要求したが、債務者会社から拒否された。

3  債権者は、医師によれば、アレルギー性鼻炎及び副鼻腔炎と診断され、焼成炉の仕事に従事中鼻汁、鼻閉、頭痛等の症状があり、この症状は債権者がフルイの仕事から焼成炉の仕事に変った頃から発生するようになったものである。そして焼成炉の作業場は、粉塵が多いうえに温度差の激しい場所であるため、ここに勤務することによって、債権者の前記アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎の症状を悪化させるものである。

4  債権者は、同年一〇月二二日から病気欠勤し、その後同年一二月九日債務者を相手方として津地方裁判所に対しフルイ担当から焼成炉担当への配置転換が無効であることを理由に賃金仮払の仮処分申請をした(同裁判所同年(ヨ)第一五二号)。同仮処分申請事件において裁判所の勧告により昭和六二年三月二七日債権者と債務者との間に「債権者は昭和六二年四月一日から就労する。債権者の就労場所を製造部第一製造課とし、その職務は一か月を限度として焼成炉の仕事とフルイの仕事とを交互に行う。」旨の訴訟上の和解が成立した。この和解の趣旨は、債務者会社が昭和六一年九月に債権者に対してしたフルイ担当から焼成炉担当への配置転換命令を撤回し改めて債務者会社が債権者に対し昭和六二年四月一日から同月三〇日までの期限付でフルイ担当及び焼成炉担当としてこの両方の仕事に交互に従事することを命ずるというものである。そこで、債務者会社は債権者に対し右和解の趣旨の業務命令を発し、債権者は同年四月一日から就労した。債権者は四月の操業日数二三日のところ、焼成炉の仕事に一二日間、フルイの仕事に八日間従事し、二日間病気欠勤し、一日間労働組合用務のために欠勤した。債権者は焼成炉の仕事に従事中は頭痛等があって苦痛であったが、同年五月一日から債務者会社からフルイの仕事の専務としてもらえることを期待して忍耐した。債権者は同年四月二三日の焼成炉勤務中及び同月二七日のフルイ勤務中に鼻血を出したことがある。

5  債務者会社の第一製造課長代理倉田猛は昭和六二年四月三〇日債権者に対し前記4の業務命令の期限が経過する同年五月一日をもってフルイの仕事を全くやめて焼成炉の仕事へ就くように命じた。債権者は同年五月一日からフルイの仕事にもどしてもらえるものと期待していたため、倉田課長代理の右業務命令に失望し、同月一日の朝電話によって製造部長柳沢武に対し、同日からの債権者の担当職務について再度確認したところ、同部長から倉田課長代理の前記業務命令と同趣旨の回答を受けた。債権者は債務者会社に対し、健康に差支えるとの理由で焼成炉の仕事に就労を拒否すること並びに焼成炉以外の仕事には就労する意思があることを通告したが、債務者会社は債権者を焼成炉以外の場所において就労させることを拒否したため、債権者は同月二日から債務者会社を欠勤して現在に至っている。

三  前記一及び二の各確定事実によれば、債務者は昭和六二年四月三〇日債権者に対して同年五月一日からフルイの仕事をやめて焼成炉の仕事に就くように命令したものであり、この債務者の命令は債権者の職務内容及び勤務場所を長期にわたって変更させるものであるから配置転換命令に該当するというべきである(本件配転命令)。

四  債権者は本件配転命令が不当労働行為によって無効である旨主張するので、この点について検討する。

1  前記一及び二の各確定事実、(証拠略)、債権者本人及び債務者代表者の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  債務者会社の従業員は総数約一二〇名のところ、昭和六〇年一二月一日七六名の従業員が出席して全日本運輸一般労働組合国光カーボン支部(第一組合)の結成総会を開催し、同日第一組合が結成された。第一組合結成と同時に執行委員長倉田猛、副執行委員長永戸浩、同落合睦、書記長山口初志、執行委員井口晴義ほか三名、会計債権者、会計監査伊東春清外一名などの組合役員が選出された。第一組合は同月二日債務者会社に対して組合結成を通告するとともに団体交渉の申入れをした。同月中に債務者会社の従業員のうち一〇〇名を超える者が第一組合に加入した。

(二)  債務者会社は第一組合の上部団体である全日本運輸一般労働組合が日本共産党の指導下による労働組合であるとして結成当初より第一組合を嫌悪し、債務者会社の主として管理職の地位にある従業員らに対し第一組合をして上部団体である全日本運輸一般労働組合から離脱させるよう働きかけるべき旨を示唆した。債務者会社代表者の意向を受けて、後に技術課長となった坂口達也、品質管理課長代理となった本間功ほかの管理職的地位にある従業員らは同年一二月から昭和六一年一月にかけて第一組合の組合員を対象として第一組合の上部団体が日本共産党系の労働組合であるとして組合脱退工作を行ったために、第一組合員の間に動揺が生じた。坂口達也及び本間功らの指導の下に第一組合の一部組合員は同年一月二七日ひそかに国光カーボン工業労働組合(第二組合)を結成した。第二組合の結成と同時に執行委員長坂口達也、副執行委員長宮崎義彦、書記長本間功、会計出口峰之、執行委員伊藤満雄、会計監査勝田泰正、同堀井秀幸が選出された。その頃既に第一組合に属する組合員約四六名が第二組合の執行部に対し第一組合からの脱退の意向を表明している。本間功、伊藤満雄、出口峰之らは第二組合結成の事実をかくし、第一組合脱退届の提出を留保して第一組合員としての立場で第一組合執行部に対し第一組合が日本共産党系の全日本運輸一般労働組合の傘下にあることの批判活動を行うとともに、第一組合の組合員に対する組合脱退工作を継続した。

(三)  そのような過程で、昭和六一年一月二七日結成された第二組合の指導下にある第一組合員四六名が同年二月一二日頃第一組合に対し脱退届を提出した。その後も第一組合は脱退者が続出し、執行委員長倉田猛、副執行委員長永戸浩、同落合睦も第一組合を脱退した。第一組合は残存組合員数が約一〇名となったので、同年二月二二日臨時組合大会を開催し、執行委員長山口初志、副執行委員長井口晴義、同債権者、書記長伊東春清を選出した。第二組合は同月二一日債務者会社に対し正式に組合結成の通告をしたが、同年三月頃までには債務者会社の従業員の過半数を自己の組合員として擁する状態となっていた。

(四)  債務者会社は第一組合を嫌悪し、第二組合が結成されてからは、団体交渉において第二組合との間においてのみ協定もしくは合意を成立させ、第一組合との間では協定もしくは合意を成立させることを拒否している。そして、債務者会社は昭和六一年六月二日職制を定めて同月九日から実施したが、部長、次長の兼任者を除いて課長及び課長代理が五名存在するところ、このうち技術課長に第二組合執行委員長である坂口達也を、品質管理課長代理に第二組合書記長である本間功を、第三製造課長に第二組合執行委員伊藤満雄を、管理課長兼検査課長に第二組合員小林武司をそれぞれ任命しているのに対し、第一組合員である山口初志、井口晴義、債権者、伊東春清、米川信男らに対しては、職制上他の従業員と比較して相対的に低い格付をしている。

(五)  第一組合は債務者会社が団体交渉の引きのばしをはかるとして昭和六一年四月三重県地方労働委員会に対し、債務者会社を相手方として団体交渉の促進及び指導の斡旋の申立をし、同年六月二〇日同委員会の団体交渉に関する斡旋案が提示された。第一組合員である山口初志、伊東春清、井口晴義、債権者及び米川信男の四名は同年九月二九日債務者会社を相手方として三重県地方労働委員会に対し、債務者会社の不当労働行為により職制上右四名が不当に低く格付けられたこと及び同年六月支給の夏期賞与額が不当に低額であるとして救済命令の申立をし、相手方である債務者会社がこれに抗争して、その後現在に至るまで同委員会において審査が行われている。

(六)  債務者会社は、債権者が第一組合の副執行委員長として組合活動に従事し、同組合とともに債務者会社に対立していることを嫌悪し、債権者が第一製造課ミシンパイル製造係の中のフルイの仕事はもとより、焼成炉の仕事を好まないことを知りながら、敢て昭和六一年九月一五日頃から債権者に対して焼成炉の仕事への配置転換を命じたものである。債権者にとり、焼成炉の仕事は債権者の体質に適合しないものであって、債権者は焼成炉の仕事の遂行中相当程度の苦痛を覚えるものである。

(七)  債務者会社は、その後も第一組合に対する従前の見解及び取扱いを変えず、前記二判示の和解に基づいて、債権者をして昭和六二年四月一日から同月三〇日までの一か月間において半分だけ焼成炉の仕事でなくフルイの仕事に従事することを許したものの同月三〇日債権者に対して本件配転命令を発して、同年五月一日から専ら焼成炉の仕事にのみ従事することを命じたものである。そして、債権者は依然として焼成炉の仕事に従事することに苦痛を覚えるものであるところ、債務者会社としては、焼成炉の仕事に従事させる者として債権者以外に適切な従業員がいない訳ではない状況にある。

2  前記1の認定事実並びに前記一及び二の各確定事実を総合すれば、債務者会社が昭和六二年四月三〇日債権者に対してした本件配転命令は、債務者会社が第一組合を嫌悪するあまり、債権者が第一組合の組合員であって、その組合員としての正当な活動をしたことの故をもってしたものであり、しかも、債権者に対する不利益な取扱いであると認められる。したがって、本件配転命令は労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として無効であるというべきである。

五  したがって、債権者は昭和六二年五月一日以後も依然として債務者会社製造部第一製造課ミシンパイル製造係のフルイ担当従業員として勤務する労働契約上の権利を有する地位にあるものというべきであるところ、前記二の確定事実によれば、昭和六二年五月上旬以降債権者が右フルイの仕事に就労する旨の提供をしているのに対し、債権者会社がこれを拒絶していることが認められる。そして、(証拠略)によれば、債権者は右フルイ担当従業員として勤務しているときには少くとも一か月一二万円の賃金を債務者会社から支給されており、賃金の支給日は毎月一五日締切りのうえ、同月二五日限り支払われていたことが認められる。したがって、債権者は債務者に対し昭和六二年六月から毎月二五日限り月額一二万円の賃金の支払を求めることができるというべきである。

六  (証拠略)、債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、債権者は賃金のみによって生活している労働者であるが、昭和六二年五月以降債務者から賃金が支払われていないために生活に窮している状況にあることが認められる。してみれば、債権者は債務者から債務者会社のフルイ担当従業員として取扱われず、かつ賃金の支払を受けられないことによって著しい損害を受けることが明らかである。よって、債権者の求める本件仮処分はその必要性がある。

七  よって、債権者の本件申請は理由があるから保証を立てさせないでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下澤悦夫)

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